あらすじ>>
故郷の奈良県吉野から離れ、18年の歳月が流れた。
東京の大学病院で医師として働く新谷誠一。
あるとき、故郷で起きた事件、13年前のことを報じている古い記事を読む機会があった。
白骨化した死体が廃屋で見つかったという――。
医療事故を起こした誠一は、故郷の吉野にある診療所への出向を命じられる。
出向先が故郷という偶然に戸惑い、さらにはその出向先の診療所が苦い過去に関わる〝橋田診療所〟である、ということに困惑する。
橋田診療所にはひとり娘の彩香(さやか)がいる。高校3年生の時、誠一と彩香は同じ医師を志す受験生として、医学部現役合格を目指していた。受験勉強という名のもとに同じ時間を共有し、そして互いの恋心を育んでもいく。ただ、2人の恋は、あまりにも短い時間で終焉を迎えることになった。
誠一が故郷に戻った時、彩香が末期の胃癌に侵されていることを知る。
彩香には、高校2年生の秋奈という名の娘がいた。そこには秋奈の父親の影はなかった。
母子二人三脚の強い絆に触れながら、誠一の中で彩香への思いは再燃されていく。
彩香はまだ18歳という若さで子を妊った。その背景に、誠一が逃げ出した青春の一頁があった。
当時、誠一と彩香の関係を引き裂いたのが、親友のひとり、佐々木邦宏という男だった。
18年ぶりに、ルポライターという肩書で誠一の前に邦宏が現われる。
友情を断絶した過去。ここにきてさらに確執を生む。
邦宏は20年近くが経ったいまも、誠一を陥れようとしていた。医療ミスを糾弾する本の原稿を執筆しているという。それは誠一が勤務する大学病院についてであり、出版の予定もほぼ決まっている、と。
彩香の主治医として一緒に癌と闘うことを誓った誠一は、奈良医科大学の治療を放棄して彩香は吉野に戻ってきていたのだと知る。碌な治療も施せない診療所に戻ってくるなど自殺行為、諦めるのが早過ぎやしないかと疑問の一石が投じられる。
それはまるで誠一が医療事故を起こし、左遷させられると予期して吉野で待っていたかのような言動にもとれた。
困惑と疑念を抱きつつ、彩香の手術は、術後の合併症の懸念を除けば成功をみたのだが……。
生きてくれと祈る誠一。
生きたいと願う彩香。
死にたいと請う邦宏。
それぞれの内にある愛、疑心、憎悪が交錯する。
おすすめポイント>

母娘の愛や再燃する恋心、
そして懐疑心に操られる心理ミステリーが織りなす、
悲しくも儚い物語です。
2作目「未来があるならば、その約束を」
3作目「リプレイス~少年たちの舞台~」

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